「就職活動の不調による留年」の問題について

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100705-OYT1T01273.htm
就職活動の不調を理由として留年している人が増えている、という。

制度・慣習の問題

これは言うまでもなく、企業の新卒中心の雇用慣行が原因である。既卒よりも新卒の方が枠自体も多いし、また条件のよろしいところも多い*1

ところではてブのコメントによれば、この記事に関してとあるコメンテーターが、「選ばなければ職はある」みたいなことを言ってたらしい。
しかし、本当に選ばなければ、
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100712-00000002-aera-soci
この記事にあるようなところに引っかかるわけだ。あるいは、労働環境に問題のある企業で働かざるを得ない、ということにもなるだろう。
*2
そういう企業に対して社会がNoを突きつけ、また公的機関が取り締まりを積極的に行う。そして求人票を出しているどの企業に就職したとしても、尊厳を持って働くことが出来、そして「健康で文化的な生活」を送ることできるようになる。そのような状況になって初めて、求職者がより好みをしていることを非難できるのだ。

話は戻るが、こういう茶番的な事態を無くすために、卒業見込に過ぎない学生に対して採用活動をするのをやめるべきではないだろうか。すなわち、見込ではなく卒業を応募の要件とする*3。また、それを実効性のあるものとするために、以下のような対策が考えられるだろう。

  1. 履歴書や応募書類に生年や卒業年の記入を要求することを禁ずる。
  2. 就職用の卒業を証明する書類には、卒業年を記載せず、ただ「卒業した」という事実のみ記載されるようにする、

もちろん、このようなことが確実に実行されるとは限らない。むしろ、様々な方法において抜け道を採ってくる可能性の方が高い。男女の職種別採用が禁止されているにも関わらず実質的にはそれと同じようなことがなされている*4のと同様に。もし本気でやろうとするなら、公的機関が自らの採用活動においてその先鞭をつけるべきであろう。

別の道を模索しよう

これまで主に制度の面からこの問題を述べてきたが、しかしこうした制度の問題以上に残念に思うのは、就職活動において苦汁を嘗め続けてきたような人々が、さらにまた同じような経験をしようとすることである。

私が思うに、この何万人の中には、一般的な就職活動のプロセスを経ての就職に、向いていない人も多いのではないか。そういう人にとってみれば、同じ形での就職活動を繰り返すのは、無駄と言わざるを得ない。特に求人状況が回復しているのならともかく、相変わらずひどいままの状況下では。

そういう人々が、同じ苦労を繰り返すと思えば、私は実に悲しい気持ちになる。そして、彼/彼女らに適した別の道もありうるはずだ、と強く信じるところである。

たとえば、起業しろとかはよく言われるが、そうでなくても、社会に参加し自分の居場所を探す方法は色々あるわけで、そういった道もあることを、周囲の大人たちは示すべきである。それが、人生経験を積んできた大人としての責務だ。

誇りを捨てず不条理に立ち向かおう

現在、労働に関わる問題で多くの人間が苦しんでいる。それは一部の属性の人間の話ではない。実際に働いている人間からすれば、雇用形態が正規か非正規かを問わず、また年齢・性別を問わず、さらには職場が民間か公的機関かを問わず、大変な状況にある者は多い。

しかしながらそれ以前に、今回触れたようにいざ勤労者としてデビューしようという段において躓く人が多い。彼/彼女らは、第一に政府や社会の無為無策による犠牲者という面が大きいのであるが、そのような状況に声を上げるのではなく、まず自分を責めることになる。自らの能力の無さが原因であると、不当にも思い込まされているのである。その自責の念は、冒頭に挙げたコメンテーターのような一部の人間からの心ない言葉により、強化される。

しかし、そのように自らを責めるのは、問題の解決には何の役にもたたない。それよりも、自らの価値と力に目覚め、同じ境遇の仲間や、境遇が違っても同じように苦しんでいる人々と連携し、不条理に押しつぶされないよう支え合い、あわよくばそれに立ち向かうほうが、遥かに有益であろう。学生の就職活動の場合には、札幌東京で開かれた「就活くたばれデモ」の事例もある。非現実的な話ではないと、私は強く思っている。

*1:中途採用が多い企業は、新卒採用だけで賄えないほど従業員が辞めていくから、という要因もありうる、と指摘する記事。新卒一括採用の会社と中途採用中心の会社 - 非国民通信

*2:ここで辞めて再び就職活動をするという選択ができればいいが、それが難しいのは、結局のところ冒頭に上げた雇用慣行に原因がある。

*3:こうすれば、内定が出たにも関わらず、単位が足りず卒業できなくなり、結局無意味となってしまう、という喜劇的な(本人にとっては悲劇的な)事態も無くなる

*4:参考:http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100408/213893/